前回のVASS ダブルバックルドシューズの記事でも書いたラズロ・ヴァーシュ氏の名著「Handmade SHOES FOR MEN」の和訳版「紳士靴のすべて」を購入した。
なかなか書店では見かけない本なのでAmazonでポチりGET。
値段は税別4,200円もするが、それもそのはず、ほぼ図鑑だ。これ。
サイズも大きいし、200ページを超すほとんどのページに写真がふんだんに使われている。
(5ページ目抜粋)
靴は人の足のとりわけ繊細な構造を、あらゆる種類の不快さから保護する。また、着用者のファッションの一部として、その嗜好や社会的立場も表現する。エレガンスは靴から始まるのだ。
「はじめに」に記載されていた一文だが、実にいいことを言う。激しく同意。靴は足を守るだけでなく、その人の、人となりを表すファッションアイテムでもあると私も思う。
本書の構成は、サイズ、ラスト、靴のスタイル、アッパー、紳士靴のすべて、靴の手入れ、靴の工房の全7章から成り、靴職人による紳士靴のすべてを網羅した本と言える。
その一部を少しだけご紹介したい。
【CONTENTS】
- サイズ SIZE
- ラスト LASTS
- 靴のスタイル SHOE STYLES
- アッパー THE UPPER
- 紳士靴のすべて THE SHOE
- 靴の手入れ CARING FOR SHOES
- 靴の工房 WORK SHOPS
サイズ SIZE
この章では足の採寸や骨構造、歩行の解析、靴のサイズ、ウィズ記号表などが記載されている。
歩行の解析では何故か全裸のオッサンの歩行シーンを写真付きで紹介。全裸の必要あるのかこれ⁉︎と思いつつ、妻に見せたところ大爆笑🤣
ラスト LASTS
ラストが必要な理由、原材料、ラスト職人、ラストの作り方などについて書かれている。
あまり焦点が当たることのないラスト自体へスポットをあてたマニア好みの章といえる。
靴のスタイル SHOE STYLES
オックスフォードやダービー、スリッポンなどの靴のデザインについて書かれた章だが、序盤の靴の歴史について書かれたページ、特にヨーロッパで12〜13世紀に流行したプーレーヌと呼ばれる足先のとがった靴についてのくだりが面白かったので一部をご紹介。
プーレーヌは空前の人気を博し、宮廷人や裕福な商人が主に愛用していたが、やがてそのとがった足先の「パイク」は、馬鹿馬鹿しいほどに長くなっていった。それを履くことが社会的ステータスだったからだ。当然ながら、長く伸びたプーレーヌはあからさまな男根の象徴でもあった。しまいには、それ以上長くなることを防ぐために、パイクの長さを合理的な範囲内にとどめるようにと、ローマ教皇のお達しが出たほどである。(以下略)
こういう靴に関する雑学は面白い。
アッパー THE UPPER
この章では革そのものに焦点を当てている。
タンニング(なめし)についての説明、ボックスカーフ、カウハイド、コードバンなどの皮の種類、また、ピンキングやブローキングと言ったアッパーに施される装飾について解説されている。
紳士靴のすべて THE SHOE
和訳版のタイトルにもなっているこの章では、靴工房の歴史や、靴そのものの構成、さらには製法についての説明、一足の靴ができるまでを各工程ごとに解説。特に工程ごとの解説は沢山の写真を使いながら、かなりのページを割いており、まさしくこの本の中核を担う章といえる。
さらにはシューツリーや靴の梱包といった付属品まで網羅した章となっている。
この章で紹介されていたトップリフトの耐久性を上げるためにスチールを取り付けるのがカッコいいね!ヴィンテージスチールで転用できるのかな。
靴の手入れ CARING FOR SHOES
この章は私達エンドユーザーに一番馴染みのある靴の手入れについて書かれている。
以下、この章に書かれていた「靴の手入れの黄金律10則」となる。
- おろしたての新しい靴は、2、3時間以上履き続けないこと。1日中履くという段階に進むのは、靴と足がすっかり馴染んでからだ。
- 同じ靴を2日続けて履かないこと。次に履くまで24時間以上あけること。
- ひも靴、バックル付き、スリッポンのいずれであっても、必ず靴べらを使って履くこと。
- ひも靴の場合、ひもの全箇所を緩めて、足が楽に抜けるようにしてから脱ぐこと。
- 靴を脱いだあとは、ビスポーク靴のシューキーパーをすぐに入れること。
- 靴が雨や雪で濡れている場合でも、シューキーパーを直ちに入れること。そして、靴底を下にするのではなく、横に寝かせて置き、24時間以上乾かすこと。
- 1度履いたら、靴の汚れを取り、靴クリームを塗ること。そのままでも本来の輝きが保たれているように見えたとしても必ずこの手入れをすること。
- 長期間靴を履かないときは、クリームを薄く塗ってコーティングする。そして、靴職人が提供する布袋に入れ、購入時に入っていた箱に入れ、靴底を下にして保管する。
- ビスポーク靴を他人に貸してはならない。同じ足の人間は2人といないのだ。
- 新しい靴にはそれぞれに個性がある。靴の美しさを最大限に引き出すには、それに相応しい服を合わせ、相応しい場に履いていくことである。
靴好きには当たり前のことから、さすがにそこまではしていないなあ、と言ったことまで書かれている。
例えば1つ目の「おろしたての新しい靴は2、3時間以上履き続けないこと」、この間のVASSではいきなり一日中履いてしまった。。
靴の工房 WORK SHOPS
VASSの創業者による本だが、ちゃんと他のブランド、ジョンロブやベルルッティなども紹介している。他にもウィーンのバリントやマテルナと言った相当な靴好きしか知らぬであろうブランドを紹介しているのも嬉しい。
和訳本は2018年8月に初版が出たとは言え、原書である「Handmade SHOES FOR MEN」はかなり古い本なので、写真等に古臭さを感じる部分はあるが、基本的な内容については今も変わらないので、興味のある方はぜひ一度ご覧いただいては如何だろうか。
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